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ほうろうさっかのぼうけん
放浪作家の冒険
西尾 正
「探偵春秋 第一巻第三号」春秋社、1936(昭和11)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,694 字 · 33 页
あたりは依然として死のような静寂、――十秒ばかりの沈黙があった。
おれの右手三尺のところに腐ったまるたんぼうがおちている。おれとしてはふたたびきりこんでくるであろう相手の切れものを、なんとかしてはらいおとさねばならぬ。はらえないまでもせめて相手の体の一部分でもうちこまねばならぬ。身をかがめてその棒きれをひろいあげる隙にやつはけもののように突進してくるに相違ないのだが、このままではよほど相手がうぶでなければいっそう敵しがたい。そのうちにもじりじりとせまってくる。もはや一刻のゆうよもない。おれはいちかばちかの骰子をなげた。案の定敵は、ドスを頭上に晃らせつつまえのめりにおっかぶさってきた。おれは体をかがめたまま、まるたんぼうを両手ににぎって力まかせの「胴」をいれた。その手は男のドスよりもはやかった。男がうめきつつ地上によこだおれになるがはやいか、猟犬が獲物にとびつくいきおいで馬のりになり、めったやたらになぐりつけた。「さそい」の一手が効を奏したのだ。
「かん……かんべん……だ、だんな、かんべん……」
よほどくるしい吐息のしたからきれぎれにこう哀願するやつを、俵でもかつぐようにもちあげて、