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ほうろうさっかのぼうけん
放浪作家の冒険
西尾 正
「探偵春秋 第一巻第三号」春秋社、1936(昭和11)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,694 字 · 33 页
声も耳ざわりのいい東京弁だが、それにもましてすっくとたった姿かたちが、胸のふくらみからゆたかな腰の線へかけてくりくりしまった素敵な肉づきなのだ。ほのくらい色電気のながれた異国の暗黒街に、どういう過去をもつかしらぬが、ひとりの日本の淫売婦がたっている、むろん正常じゃないが、婬惨な、ダダ的な情欲がながれて、おれの脳神経をあまずっぱく刺戟した。女はおれの甘チャンぶりをはやくも洞察したのであろう。くるりと背中をむけると、相変らずその眼は不愛想でニヒリスティックではあったが、くいいるようなながしめをあたえつつ、小猫のように音もなくさきにたってあるきだした。おれがそのままずるずると女のあとにしたがったのはいうまでもない。しばらくはおれと女の靴音が虚無にひびいた。月は表通りの屋根にかくれ、ただたちならぶ娼家の不安気な色電気が路地から路地へさしこんでいるのみで、さきへゆく女のすがたが闇のなかにきえるかと思えばまたふうわりと浮びでて、みえつかくれつ、さいごにとある路地のあいだに吸われるようにかくれた。
上ってだいいちにおどろいたことは、その娼家が、やすぶしんではあるがとほうもなくひろいということだ。