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ほうろうさっかのぼうけん
放浪作家の冒険
西尾 正
「探偵春秋 第一巻第三号」春秋社、1936(昭和11)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,694 字 · 33 页
路地からみかけたところでは階下も二階も二間かせいぜい三間ぐらいだろうと思われたが、うすくらいなかにリノリュウムばりの廊下がにぶく光りながら前方にながくつづいていて、つきあたってなお右左にわかれている。その廊下の両側が女たちの居部屋であるらしく、時折、男のしわぶきやひそひそばなしが陰々としてきこえてくるところをみると、今がラッシュ・アワアであるらしい。このアパアトメントふうの家を女について二三間ゆくと、右手に階段があって、それをのぼりきると踊り場からさらに廊下が前方にのびているらしく、それ自身迷路のような風がわりな構造にあっけにとられていると、女はとつぜんこづくようにおれを左手の小部屋におしこんだ。いったい幾間あるのか見当もつかない。この家は路地の角にあるのではなく、両隣とうしろがおなじような家々と密接しているので、ことによったらそれだけの大きな家を、外観だけ三軒ないし四軒にわけたのかもしれぬと思った。事実こういう家は日本でもめずらしくない。
部屋へはいると女は、さっきの水のようなつめたい態度とはうってかわって、わびしい異郷にあっておなじ日本人にであったというよろこびを誇張して、さもさもなつかしくてたまらぬといったあんばいで必要以上に濃厚なしなをしてまといついてくる。