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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

狂人じみた口入れ屋の高い広告灯が、難破船の信号みたように、ハタハタしていた。

「お望みは……。」

牛太郎のような番頭に、まず私はかたずを呑んで、商品のような求人のビラを見上げた。

「辛い事をやるのも一生、楽な事をやるのも一生、姉さん良く考えた方がいゝですよ。」

肩掛もしていない。此みすぼらしい女に、番頭は目を細めて値ぶみを始めたのか、ジロジロ私の上下に目を流している。

下谷の寿司屋の女中さんに紹介をたのむと、壱円の手数料を五拾銭にまけてもらって、公園に行く。

今にも雪の降って来そうな空模様なのに、ベンチの浮浪人達は、朗らかな鼾声をあげて眠っている。

西郷さんの銅像も浪人戦争の遺物。

貴方と私は同じ郷里なんですよ。鹿児島が恋しいとお思いになりませんか、霧島山が桜島が、城山が、熱いお茶にカルカンの甘味い頃ですね。

貴方も私も寒そうだ。

貴方も私も貧乏だ。

昼から工場に出る。生きるは辛し。

十二月×日

昨夜机の引き出しに入れてあった、松田さんの心づくし、払えばいゝんだ借りておこうかな、弱き者汝の名は貧乏なり。

家へかえる時間となるを

ただ一つ待つことにして

今日も働けり。