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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

明日は尋ねて行こう。私は四十七銭也の財布を袂に入れると、ラムネ一本のすきばらのまゝ汐臭い蒲団に足を延ばした。

どこか遠くの方で、蜂の巣の様にワンワン喚声があがっている。

六月×日

枕元をガリガリ水色の蟹が這って行く。町はストライキだ。

「会いに行きなさるゆうても、大変でごじゃんすで、それよりや、社宅の方へおいでんさった方が……。」

私は心細くかまぼこを噛んだ。

社員達は、全部書類を持って、倶楽部へ集っていると云う。

私はぼんやりと外へ出た。万里の城のように、えんえんとコンクリートの壁をめぐらしたドックを山の上から見ると、菜っぱ服を旗に押したてゝ通用門みたいなとこに、黒蟻のような職工の群が、ワンワン唸っている。

山の小道を、子供を連れたお上さんやお婆さんが、点々と上って来る。六月の海は、銀の粉を吹いて、縺れた樹の色が、シンセンな匂いをクンクンさせていた。

「尾道から警官がいっぱい来たんじゃと。」

髪をいっせいに、後に吹かせた若いお上さんが、ドックを見降した。××と職工のこぜりあい。

「しっかりやれッ!」

「負けなはんな!」

「オーイ……」真昼間の、裸の職工達のリンリとした肌を見ていると、私も両手をあげて叫んだ。