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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

海の只中へ矢のように走って出た。

だが……

オーイ オーイ

寒冷な風の吹く荒神山の上で呼んでいる

波のように元気な喚叫に耳をそばだてよ!

可哀想な女房や子供達が

あんなに脊のびして

空高く呼んでいるではないか!

遠い潮鳴りの音を聞いたか!

波の怒号するを聞いたか

山の上の枯木の下に

枯木と一緒に双手を振っている女房子供の目の底には

火の粉のようにつっ走って行く

赤い帆がいつまでも写っていたよ。

宿へ帰えったら、蒼ざめた男の顔が、ぼんやり天井を見ていた。

「宿の叔母さんが迎いに来て、ビックリしちゃった。」

「………………」

私は子供のように涙が湧いた。何の涙でもない、白々とした考えのない涙が、あとからあとから、あふれて、沈黙ってしきいの所に立って泣いた。夕方の空を時鳥がケンケン鳴いて行く。

「こゝへ来るまでは、すがれたらすがってみようと思って来たけど、宿の叔母さんの話では、奥さんも子供もあるって聞きましたよ、それに、町のストライキを見たら、どうしても、貴方に会って、はっきりとすがらなくてはいけないと思いました。」

沈黙っている二人の耳に、ワアンワアン喚声が聞える。

「今晩町の芝居小屋で、職工達の演説があるから、一寸のぞいてみなくては……。