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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

一杯五銭の甘酒! 一杯五銭のしる粉! 一串二銭の焼鳥は何と肩のはらない御馳走だろう……。

漂々と吹く金魚のような芝居小屋の旗、その旗の中にはかつて愛した男の名もさらされて、わっは……わっは……あのいつもの声で私を嘲笑している。

さあ皆さん御きげんよう……何年ぶりかで見上げる夜空の寒いこと、私の肩掛は人絹がまざっているのでござります。他人が肩に手をかけたように、スイスイと肌に風が通りますよ。

十二月×日

朝の寝床の中で、まず煙草をくゆらす事は淋しがりやの女にとって此上もないよきなぐさめ、ゆらりゆらり輪をかいて浮いてゆくむらさき色のけむりはいゝ。お天陽様の光りを頭いっぱいあびて、さて今日はいゝ事がありますように。

赤だの黒だの桃色だの黄いろだの疲れた着物を三畳の部屋いっぱいぬぎちらして、女一人のきやすさに、うつらうつら私はひだまりの亀の子。

カフェーだの牛屋だのめんどくさい事より、いっそ屋台でも出しておでん屋でもしようか。誰が笑おうと彼が悪口を云おうと、赤い尻からげで、あら、えっさっさだ! 一ツ屋台でも出して何とか此年のけじめをつけよう。

コンニャク、いゝね厚く切ってピンとくいちぎって見たい……がんもどき竹輪につみれ、辛子のひりゝッとした奴に、口にふくむような酒をつかって、青々としたほうれん草のひたしか…