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ほうろうき(しょしゅつ)
放浪記(初出)
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页
怪談なんかに話が飛ぶと、たい子さんは千葉の海岸で見た人魂の話をよくした。
この人は山国の生れか非常に美しい肌をもっている。やっぱり男に苦労する人だ。
夜更け一時過ぎまで花弄をする。
六月×日
萩原さん遊びに来る。
酒は呑みたし金はなしで、敷蒲団一枚屑屋に壱円五拾銭で売る。
お米がたりなかったので、うどんの玉をかってみんなで食べる。
酒の代りに焼酎を買って来る。
平手もて
吹雪にぬれし顔を拭く
反共産を主義とせりけり
酒呑めば鬼のごとくに青かりし
大いなる顔よ
かなしき顔よ。
あゝ若人よ! いゝじゃないか、いゝじゃないか、唄を知らない人達は、啄木を高唱してうどんをつゝき焼酎を呑んだ。
その夜、萩原さんを皆と一緒におくって行った夫が帰えって来ると、蚊帳がないので、部屋を締め切って、蚊取り線香をつけて寝につくと、
「オーイ起ろ起ろ!」ドタドタと大勢の足音がして、麦ふみのように地ひゞきが頭にひゞく。
「寝たふりをするなよお……。」
「起きているんだろう。」
「起きないと火をつけるぞ!」
「オイ! 大根を抜いて来たんだよ、うまいよ起きないかい……。」
飯田さんと萩原さんの声が入りまじって聞える。