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ぶんかさい

文化祭

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第九号」1954(昭和29)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,978 字 · 28 页

青空文庫

谷へのイヤガラセである。今日一日は谷の顔も見たくない。出演の義務だけ軽く果して、一時も早く彼の顔の見えないところで自由の息を吸いたかった。それに、も一ツ、甚だしく唯物的な理由もあったのである。

「井田さんは文化祭の幹事なさッていらッしゃるのでしょう」

と、ヤツ子は雑木林の雰囲気にはお構いなく、甚だ率直にその唯物的な問題をきりだした。

「幹事は幹事ですが、使い走りですね。大学卒業生は農村では他国者のようなものでしてね。実権は持てないのです」

ケンソンではない。万一の場合にそなえて、おのずからの防禦の体勢。知能と関係のない特殊な頭脳の廻転だ。

「幹事ではいらッしゃるのね」

「そうなんです」

「井田さんに申上げるの筋違いかも知れませんけど、私はね、この文化祭にバンドマスターの谷さんがなさった契約、不満なんです。バンドの人たちとケンカしたのが、そのためなんですわ。往復の汽車が三等でしょう。私だけ二等で来たのです。素人歌手のくせに生意気だと仰有るかも知れませんけど、学生のアルバイトだからむしろ誇りが持ちたいのね。みじめな思いでドサ廻りまでしたくないのです。この村の方だって、駅ぐらいまで出迎えて下さるのが当然じゃないかと思うんです。