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ぶんかさい

文化祭

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第九号」1954(昭和29)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,978 字 · 28 页

青空文庫

ところが井田信二は名実ともに威勢のいい人物ではなかった。小学校の時から体操がヘタで、至って栄養がよいのに力がない。鉄棒にぶら下れば、ぶら下りッ放しで動くことができないという非力で、およそスポーツというものには何一ツ趣味もなければ縁もなかった。

こういう虚弱児童には才気が恵まれているのが普通であるが、彼はその方にも縁がなかった。少くとも学校で教えてくれる学問というものには腕の見せ場がなかったのである。農村の特殊階級、大旦那の坊っちゃんだから、物さえ言わなければボロをださずにすむ。駈けッこをさせなければ負けるはずもない。ボロをださせないために小学校の先生なぞは大そう苦心したものだが、思わぬ諸方にボロをだすので音をあげたものだ。箸にも棒にもかからないノータリンの風格があった。

しかるに彼が鋭鋒を見せはじめたのは中学校へあがってからで、自転車にも乗れないから、中学校の所在地に然るべき家を買い女中に侍かれて通学したのであるが、その頃から人の物を横どりするのに才腕をあらわすようになった。

左側の生徒が使っているナイフをそッと掌中に握る。これを右手の掌中に持ちかえて、右側の生徒の机の下からそれを拾いあげたようなフリをする。