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ぶんかさい

文化祭

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第九号」1954(昭和29)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,978 字 · 28 页

青空文庫

そして右側の生徒にきく。

「これ、キミのだろう?」

「オレんじゃないね」

「そうかい。キミの足もとに落っこってたんだが、じゃア持主がないんだね。もらっとこう」

と自分のポケットへおさめてしまう。そのナイフを買う金に不自由のない彼だから、ナイフが欲しいわけじゃない。左側の生徒がそれに気附いて、

「オイ、よせよ。それ、オレんだよ」

と云ってくるのがツケ目なのである。彼の目玉は三角になる。当時はまだ若いから、そうであった。つまり大いに怒るのである。

「キミのナイフがそこに落ちてるはずはないじゃないか。かりにキミのナイフだとしても、ボクが見つけてあげなければ、キミはなくした物なんだぜ。ボクが見つけて拾ったんだからボクの物だよ」

ここから論戦がはじまるけれども、井田信二の論法は発想が根本的にちがうから論戦にならない。六法全書の論法はフシギに通用の力を失ってしまう。ナイフの所有権は信二の手に帰する結末になるのである。

この鋭鋒は彼の裏庭のタケノコのように目ざましく成長した。しかし、村の人たちは気づかなかった。なぜなら、中学校と大学をよその土地ですごしたからである。終戦後、彼が大学を卒業して村へ戻ってきたとき、村の人々は孤島のジャングルから南方ボケした能なしが復員してきたように彼を迎えたにすぎなかったのである。