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ぶんがくてきじょうぜつ

文学的饒舌

織田 作之助

「文学雑誌」1947(昭和22)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,597 字 · 10 页

青空文庫

最近「世界文学」からたのまれて、ジュリアン・ソレル論を三十枚書いたが、いくら書いても結論が出て来ない。スタンダールはジュリアンという人物を、明確に割り切っているのだが、しかし、ジュリアンというのはどんな人物かと問えば「赤と黒」一巻を示すよりほかにスタンダールにも手はないだろう。ジュリアンを説明するのに「赤と黒」の何百頁かが必要だったわけだ。だから、三十枚の評論で結論が出る筈がない。結局、「赤と黒」を読み直すことがその都度の結論だが、僕は「ジュリアン・ソレル」という小説を書こうと思う。これは長いものになるが、今年中か来年のはじめには着手するつもりだ。僕の小説に思想がないとか、真実がないとか言っている連中も、これを読めば、僕が少くとも彼等よりもギリギリの人生を考えて来た男であることは判るはずだ。

人間的にいわゆる大人になることは作家として果して必要だろうか。作家の中には無垢の子供と悪魔だけが棲んでおればいい。作家がへんに大人になれば、文学精神は彼をはなれてしまう。ことに海千山千の大人はいけない。舟橋聖一氏にはわるいが、この人の「左まんじ」という文芸春秋の小説は主人公の海千山千的な生き方が感じられてがっかりした。