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ぶんしょうそのた

文章その他

坂口 安吾

「鷭 第一輯」鷭社、1934(昭和9)年4月11日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,564 字 · 10 页

青空文庫

とても酔いきれない。芝居の初めの一途の恋に思いせまった娘の様子が稀世の神品であればあるだけ、終りに受けた莫迦らしさは深まるばかりであった。が、私は悪口を言うために文楽を持ち出したわけではなかった。あべこべである。

まず、幕が揚がると、合邦の侘び住居では老いた合邦夫妻が不行跡を働いて館を駈落ちした娘の身の上を案じ合っている。もう死んだかもしれないという。生きていて、うっかりすると、この侘び住居へ落延びてきやしないかという。二人はぎょっとして身を竦ませる。武士の意地、落ちてきたからには一刀両断にしなければならぬと合邦がいう。いいえいいえ死んでしまったことでしょうよ、ふびんな娘よと、母は仏間へ座って娘の冥福を祈りはじめる。時刻は深夜である。すると、娘がただ一人侘び住居を訪れてくる、コトコトと戸を叩くのである。

あれは娘が来たのでは――と、仏間の母がふと誦経をやめて立ち上ろうとする。やい、まてまてと合邦がとめる。あれは闇を吹く風の訪れだと言うのである。老母はそこで座にもどって誦経をつづける。再び戸がコトコトとなる。やっぱり娘ではと又立ち上る。なんの死んだ娘の来ることがあろうかと、合邦は慌てふためいて押しとどめる。