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ぶんしょうそのた

文章その他

坂口 安吾

「鷭 第一輯」鷭社、1934(昭和9)年4月11日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,564 字 · 10 页

青空文庫

実は内心てっきり娘と分ったのだが、娘とあれば殺さねばならず、思いみだれて、とにかく家へは上げぬ分別と考えたらしい。あれは深夜の風の訪れにまぎれもないと言いくるめて、老婆をむりやり仏前へ座らせてしまう。又、戸が幽かにコトコトと鳴る。再三再四、同じことが繰り返される。とうとう老婆はたまりかねて、いいえ娘です娘ですと狂乱の態で、いとしい娘よと戸口の方へ走りよる、合邦もとめかねてしまう。

さて一方戸外の娘は、深夜を背に負い、戸口へ顔をあて、内部の動きをうかがいながらそれまでは戸をコトコトと叩く以外に何の身動きも表わさない。ところが、いよいよ老母が狂乱の態で戸口へ走りよる気配を察しると突然何物も見えない後の闇をつと振向き、思わずほっと肩を落す。――私は凄艶無類の美と静寂に深く心を打たれた。

表情のない、順って、非現実的であり夢幻的であることを見物と約束している人形芝居には、それ故、一種のベールをつけた心緒の上で、むしろ一層の現実性と実感とを含めうることができる。それはそれとしておいて、ちょっとした、このなんでもない玉手御前の動作の上に表わされた、驚くべき人間観察の深さを見ていただきたい。