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となんせんせい

斗南先生

中島 敦

「光と風と夢」1942(昭和17)年7月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,262 字 · 44 页

青空文庫

支那事変に先立つこと二十一年、我が国の人口五千万、歳費七億の時代の著作であることを思い、その論旨の概ね正鵠を得ていることに三造は驚いた。もう少し早く読めば良かったと思った。あるいは、生前の伯父に対して必要以上の反撥を感じていたその反動で、死後の伯父に対しては実際以上の評価をして感心したのかも知れない。

大東亜戦争が始まり、ハワイ海戦や馬来沖海戦の報を聞いた時も、三造のまず思ったのは、この伯父のことであった。十余年前、鬼雄となって我に寇なすものを禦ぐべく熊野灘の底深く沈んだこの伯父の遺骨のことであった。鯱か何かに成って敵の軍艦を喰ってやるぞ、といった意味の和歌が、確か、遺筆として与えられたはずだったことを彼は思出し、家中捜し廻って、ようやくそれを見付け出した。既に湿気のためにぐにゃぐにゃになった薄樺色地の二枚の色紙には、瀕死の病者のものとは思われない雄渾な筆つきで、次のような和歌がしたためられていた。

あが屍野にな埋みそ黒潮の逆まく海の底になげうて

さかまたはををしきものか熊野浦寄りくるいさな討ちてしやまむ