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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「いや待て。それよりは、飯を喰っておくことだ」

藤吉郎は、腰をすえ直した。

ゆうべ茂助の小屋を立つ時、用意してきた二食分は、ちょうど今朝の一食でおしまいになる。

水はもう瓢になかった。しかし陽出づる雲の大海をながめながら柏の葉でつつんだ稗飯を喰う味は、生涯、忘れ得まいと思われるほど美味かった。

喰い終る頃、うっすらと、下の谷間は霧が霽れかかって来た。敵の搦手だ。――蜀の桟道を思わすような蔦葛の這った桟橋が見える。絶壁が見える。巨大な青苔の生えた石垣やら柵なども見える。

そこは、陽あたらずの沢――とよんでもいいほど、暗くて、悽愴な風がたえず吹いていた。

「のろし筒は」

藤吉郎が見まわすと、梶田隼人がすぐ答えた。

「てまえが携えています」

「そうか。――それを茂助にあずけて、のろしの打ち揚げ方をよく教えておけ」

「は。……茂助どの」

「はい」

「これへ来い」

隼人は、のろし筒と、硝薬入れとをそこへ出して、茂助に伝授していた。

「茂助、心得たか」

藤吉郎は、やおら立つと、そしてもう一度、茂助に念を押した。

「これから、わし達が、搦手の水門口を見つけて、そこから斬って入るが、そちはここで耳を澄ましておれ。