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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

洲股川の大江を渡って、信長の召状は、藤吉郎の城門へ届けられた。

ここも、この春は、平和に暮れて、松風の築山陰には、山藤の花が白々揺れていた。

本丸の広庭を抱いたその築山のうしろ方には、先ごろ普請した新しい講堂風の建物と、一棟の添屋があった。

小さい棟には竹中半兵衛と妹のおゆうが住んでいた。

大きな講堂作りの棟のほうは、家中の者の修養練武の床として建てられたものだった。竹中半兵衛を師として、朝には論語、孝経などの講義が開かれ、昼は、槍術や太刀を励みあい、夜は更くるまで灯をかかげて、半兵衛は、孫呉の軍学を説いた。

一藩の士風を、まずここから叩き直そうとするように、半兵衛は熱意をもって、若い諸士の教養に当った。

守将の藤吉郎からしてそうであるが、ここの家中は小六党出の野育ちな武士が中心となっている。

藤吉郎は、自分を顧みて、自分に欠けているがために、平常、持とうと心がけているものを、彼らにも持たせなければならないと考えた。野育ちの強さだけでは、行く末、自分のものとして、ほんとに役立つ家来にはなれない。そう憂いていたからである。

で。――竹中半兵衛を迎えると共に、彼は、自分も半兵衛に入門の礼を執り、講舎を建て、一藩の軍学師範と仰いで、家中の教育を一任した。