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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「はてな。年頃は」

「四十ぐらいかと思われます」

「人品は」

「至って爽やかな男振りで、どうも諸処をうろつき歩く武芸者とは受けとれません」

どういう打ち合わせになったのか。三名の下役達は、何か慌ただしげに帰って行った。

可成は、老臣を呼び、何やら密かに云いふくめる。

間もなく、前の三名が、一人の男を役所から移して来た。夕刻、嫌疑をうけて曳かれた武芸者である。仄暗い廊下の灯りをよぎって、その影は、ただ一人、奥の書院へかくれた。

書院の上座には、すでに褥や、客を遇するものが備えてあった。武芸者は、老臣にすすめられるまま、黙然、それに着座した。

「ただ今、主人可成が、間もなくお眼にかかりますれば」

老臣は、退ってゆく。

焚きこめてある香がどこともなく香う。しかもこれは、それがどんな名木であるかを嗅ぎわけてくれる貴賓でもなければ、可惜、勿体ないほどな馳走である。――と、解するや否や、ここへ来てはよけい旅垢の眼だつ武芸者は、なお、黙然たるまま主の気はいを待つこと久しい。

昼は、笠につつまれていた面貌も、今は、燈火のそばに静かにまたたかれている。なるほど、役人が疑ったように、諸国を旅してあるく武芸者にしては、色白に過ぎる。