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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「叱。お帰り」

と、犬か猫でも追うように、良人にかくして、帰れということばかり責めていたものである。

猫といえば――

日吉が、茶わん屋を出されて、藪山のやしきへ、叔母を頼って行った日、猫が飯をたべているのを眺めて、沁々、羨ましく眺めながら、自分の空腹には、一椀の冷飯も与えられないのを、天地に喞ったこともある。

考えれば、それから二十年。――渺茫と長かった気もするし、わずか二十年――という気もする。

いずれにせよ、なつかしい人ではあった。猫の飯のことなど、すぐ思い出されはしても、何らの怨恨などではない。むしろ、恩を謝したい。

「…………」

藤吉郎は、じっと、その人を見ているうち、眼に熱いものがあふれてきた。――母とは最も近い肉親である。妹である。母はひそかに、不遇なこの妹の身をも、常々案じていたろうに、いまだかつて、自分に何もいったことがない。自分に対して、気がねをしておいでになったものとみえる。

「寧子」

「はい」

「わしが幼い時、たくさん可愛がっていただいた叔母御だ。なぜ、あんな片隅に、おかまいせずにおくか。お褥を、こちらへ移せ」

「幾たびも、おすすめ申しあげましたが、固くご遠慮遊ばしていらっしゃいます。