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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
まだ陽も落ちぬまに、箕作落城の報がはいった。
黄昏に近づくと、観音寺の城の方面に、黒煙があがった。木下藤吉郎、その他の手勢が、もう城に迫ったとみえる。
「いざ行け」
総攻撃の令が下る。信長も陣をうつし、箕作その他の全軍も、一せいに観音寺へ押しつめた。
宵闇の迫る頃には、もう一番乗り二番乗りの名のりが敵の城壁をこえていた。忽ち城内の一角から炎があがる。――冴えた秋の夜空は星と火の粉に満ちていた。
破竹! というも愚かな程だった。
寄手はなだれ込む。
区々に、凱歌が揚がってゆく。――それは敵の佐々木一族には、余りに無情な秋風の声と聞えたであろう。わずか一日のまにこの堅塁が陥るとは誰も予期していなかった。和田山の塁、箕作の出城、十八ヵ所の要害も、この急激な怒濤のまえには、何の防ぎにもならなかった。
宇多源氏以来の名門、佐々木六角や承禎入道をはじめ、一族やら女子供は、あわれ闇につまずきながら、争って、炎の城から石部城の方へ落ちて行った。
「落人どもは、落ち行くままに見のがしておけ、まだ明日の敵が先にある」
信長は、彼らの生命ばかりでなく、彼らが搬出して行ったという夥しい財宝にも眼もくれなかった。