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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

そう思いつめたのだった。

「…………」

藤吉郎も、いつまでも、寧子の頬を抑えていた。じっと見つめた。初めて妻の涙を見たからである。

「馬鹿」

いきなり、もっと深々と、胸の中へ、妻の顔を抱きしめてやってから、彼は、そう云いながら邪けんなように突っ放した。

「――何を泣く。やがて一城の主の夫人ともなる者が、はははは」

大股に、濡縁まで出て、

「ごんぞ居るか。ごんぞ」

若党を呼び立てると、

「はいッ。御用にござりまするか」

ごんぞは、駈け寄って、彼の眼下にひざまずいた。

「この書面を持って、大急ぎで使いいたせ」

もう城内で認めて来たものらしい。懐の中にそれはもう書かれてあった。

「どちらへでござりますか」

「密封ゆえ、宛名は封の下に認しておいたが、海東郡の蜂須賀村までだ」

「蜂須賀村へ」

「小六殿の屋敷をおまえ知らないか。土豪の小六殿だ」

「あの、野武士の……」

「うかとでも、失礼な言辞あってはならぬぞ。わしが今、御城内から乗って来た馬が門辺に繋いであろう。それへ跨がり、直ぐ飛んで行って来い」

「はッ。心得ました」

「御返辞は、城内へ持って参れよ。もう家にはおらぬから――」

その晩は、すでに武装し、藤吉郎は、城内に詰めていた。