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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「よくも続いて来たものだ」

庭へ降り立つと、小六正勝はいつもそう思う。応永、大永の昔から住んで来て、今に至るまでの祖先と現在のつながりを思う。

「おれの代も、遂にろくな家名も興さず終るのかな。……だが今の時勢に、これだけの物を失くさずに持ちこたえて来ただけでも、御先祖は諒としてくれるかもしれぬ」

そう慰めながらも、一面には、自分の本質のうちに、なお慰めきれない髀肉の嘆が常にあるらしく見られる彼であった。

そういう静かな日の彼や、四方鬱蒼に囲まれた一城郭にも等しい旧家のたたずまいを眺めただけでは、ここの主が、海東郡の野に潜む二千余の豺狼を飼って、尾濃の闇を股にかけて働き、戦国の裏道に出没して、領主の力でも抜くことの出来ない地盤と勢力を、牢固として持っている野武士の頭領とは、考えられない姿であった。

「亀一」

庭を歩いていた小六は、ふいに母屋の一つの部屋へ向って呼んだ。

「亀一ッ、支度して来い」

ことし十二歳になった小六の嫡男亀一は、父の声を聞くと、

「はいッ」

すぐ袴の股立ち取って、室内から二本の稽古槍を抱えて庭へ降りて来た。

「何しておったか」

「書を読んでました」