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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

(まず三河と御和議あって)

これは重臣たちの献言もあり、彼としても意を得た策であった。去年半歳のうちの最も大きな収穫は、そうして松平元康との和盟が成立したことだった。

この松の内。

その松平元康は三河から清洲城へ会見に来る予定になっている。信長は大いに歓待に努めようとその日を楽しんでいた。重なる臣下を美濃境から呼びもどしたのは、当日の盛儀をして出来るかぎり旺んにしたいという考えからでもあった。

やがて。信長は内にはいる。

長いあいだ主君の姿を見なかった武士たちは、信長のすがたが殿中の広縁へ遠ざかるまで、眸をこらして見送っていたが、

「やすめ。――各※(二の字点、1-2-22)の詰所へ退り、休息のうちに、沙汰に及ぼう。その上で随意お暇をいただくがよい」

部将の命令で、隊は解かれ、黒々とくずれた武者たちの上に、初日は大きく昇っていた。その中に足軽約五十名ほどを連れて、城内の隅のほうへ行く木下藤吉郎の姿もあった。

留守組の同僚が彼方から来て、真正面に出会っても、

(やあ、木下)

と、うっかり呼びかけないほど、彼の顔は陽焦けしていた。髯はあまり生えない性であるが、肌は薪のように荒れ、兜摺れに額は禿げて、鼻のあたまや頬は赤く霜げ、歯と眼ばかりが白かった。