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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

鞠を手に留めて、

「はアい。なんです」

「あなたお幾歳になったんですか」

「十――四」

「御近所の方がわらいますよ。箏でも弾くか、お書初でもなさい」

「笑ってもかまわないの。お姉さまのようになると、もう鞠はつけないでしょ」

木綿藤吉

米、五郎左

かくれ柴田に

のけ佐久間

「や屋さん――」

「またあ。なんですか」

「そんな唄、謡うもんじゃありませんというのに」

「あら」

「およしなさい。町の流行唄なんか。もっといい鞠唄があるでしょ」

「お姉さまは、ほんとに勝手ですね。この唄は、お姉さまが町から覚えて来て、わたしに教えたんでしょ」

おや屋の理窟に負けてしまったのか、垣の内の声は黙ってしまった。

おや屋は、垣の隙間へ顔を寄せて、台所に見える姉の姿へ、

「奥様。若奥さま。――木綿藤吉の若御寮さま。どうしてお黙り遊ばしてしまったのですか」

と、からかった。

浅野家の弓長屋以上、ここは隣近所が耳近いのである。寧子は顔を真っ紅にしてしまい、

「――や屋さん」

と、睨める真似して、家の奥へかくれ込んでしまった。

「ホホホホ、お姉さまが、お姉さまが」

おや屋は欣しがって、思わず鞠を宙へ抛った。ぽんとつくと、前よりまた高く上がった。