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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「大工、左官は見えない」

「そこまでには、まだ百日もかかるだろう」

美濃方の雑兵たちは、退屈のやり場に見物していた。

河幅は広い。

晴れた日ほど、大河の水面から昇るうすい川靄がぎらぎら光って、遠目ではよく見極められないが、どうかすると、城工事の掛声や石を切る音などが、対岸から風にのって聞えてくる日もある。

「こんどは、奇襲をやらないのかな。工事の中途を狙って」

「やらぬらしい。不破平四郎様からも、厳命だ」

「何と」

「鉄砲一つ撃つことならぬ。敵に存分、働かせておけと」

「城のでき上るまで、見物しておれというお達しか」

「今までの御方針は、敵が城を築きかけると、奇襲をかけてぶッ潰し、また、新手が来て、七分ぐらいまで、工事が進んだと見ると、一挙に襲せて、木ッぱみじんにしてくれたが、こんどは、最後の仕上げがすむまで、腕ぐみして見ておれという軍令だ」

「どうするのだろう」

「奪るのさ。勿論」

「なるほど。敵に築かせておいて、そっくり頂戴するのか」

「作戦はそこらしい」

「いや、妙策だ。織田方でも柴田とか佐久間とかは、ちと手強いが、こんどの将は、木下藤吉郎とか、足軽に毛のはえたようなのが頭だから……」