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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「知れたこと。存分に築城させ、後より乗っ奪って、かえって美濃が尾張を制圧するの足場としようという計であろう」

「その通りである」

「稲葉山のおさしずはそうあった。けれど、敵を知らぬ危うい作戦。治郎左衛門には、味方の滅亡を座視しておれぬ」

「どうして味方の滅亡となるか。平四郎には解せぬ」

「耳をすまして、対岸から流れてくる石工や人夫の掛け声、種々な物音をつつんだ音響、また築城の進みようなど注意しておればわかる。山川みな兵となって働いているような活気だ。――これまでの佐久間、柴田などとちがい、こんどの采配ぶりには魂がはいっている。織田でもよほどな人物が、指揮に当っておるに相違ない」

「うわははは」

とうとう不破平四郎は腹をかかえてしまい、買被るなと、治郎左衛門を揶揄した。

味方と味方同士でも、必ずしも心は一つと限っていない。治郎左衛門は、虎髯の中で、大きく舌うち鳴らして、

「止んぬる哉だ。笑え、笑って見ておれ。思い知るから――」

云い捨てて、駒を呼び、四、五の家来たちと共に、憤然と立ち去ってしまった。

美濃にも、具眼の人物がいないではない。

大沢治郎左衛門の予言は、中っていた。