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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
「新規にいただきました五百貫の恩地は、斬り取りいたしとう存じますが」
と、願い出て、信長のゆるしを得ると、もう正月七日は、洲股の城にいた。
「味方の一兵一卒も損せず、主君の領土の一木一石も用いずに、築きあげたこの城だ。五百貫の禄地も、敵から斬り取って、天禄を喰おう。――秀吉はそう存ずるが、彦右衛門や、一同の考えはどうか」
帰ると、諸士へ計った。
蜂須賀正勝は、旧名の小六を捨てて、この正月から、彦右衛門正勝と改めていた。
「おもしろい」
彦右衛門は、今では全く藤吉郎に心服していた。信長から「後見に」とはいわれても、ほとんど、臣下の礼を執って、さらに旧縁にこだわらなかった。
「さらば」
と、奇略の兵を放って、その月から近郷の領地を攻めにかかった。もちろん斬り取りする領土は美濃のものであった。
信長から与えられた禄高は、五百貫であったが、斬り取りした領地は千貫に余っていた。
信長は聞いて苦笑した。
「あの猿一匹で、美濃一国を奪るに足りる。苦情をいわぬ男も世にはあるものだ」
地盤はできた。
気はすでに美濃を呑んでいる。
けれど、敵の本城、稲葉山から遠い飛領などは斬り取りできても、さて一水を隔てた斎藤家の本領は、さすがに頑としたところがある。