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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
「三人衆は抜けますまいが、幸いなことには、主水は兄とちがって、利慾に敏い人間ですから、これは利をもってすれば、使えましょう」
「いや、鵜沼の虎を動かすには、主水だけでは力が足らぬ。あの虎をこっちの檻へ入れるには、もうひとり脇役が要る。それには、お手前の甥、渡辺天蔵を働かせようと思うが」
「至極でござる。――が、その二人を用いて、如何なる妙策がおありかな」
「こうだ。彦右衛門」
藤吉郎は、自分からすり寄って、蜂須賀彦右衛門の耳へ、低声でなにか策略をささやいた。
「……ムム。なるほど」
と、呻いたきりで、彦右衛門は、しばらく、相手の顔を見まもっていた。
同じ頭脳をもちながら、どこからそんな鬼謀と鋭い神算がひらめくものかと、自分の頭脳とくらべて、呆れ顔であった。
「早速にも、又十郎、天蔵の両名をさし向けたいが」
「心得申した。敵地へ入ることゆえ、夜半を待って、河を渡らせましょう」
「両名へは、御辺からつぶさに、策をさずけ、注意などしてもらいたいが」
「その儀も」
と、呑みこんで、彦右衛門は、守将の部屋を退って出た。
今のところ、この城中の兵は、大半以上、元蜂須賀村の野武士の出が、侍となって固めているが、彦右衛門の弟、蜂須賀又十郎だの、甥の渡辺天蔵なども、武者溜りのうちにいた。