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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

留守中、母から、さらしの襦袢が二枚送って来ていた。

*

(一月×日)

カフエーで酔客にもらった指輪が思いがけなく役立って、十三円で質に入れると私と時ちゃんは、千駄木の町通りを買物しながら歩いた。古道具屋で箱火鉢と小さい茶ブ台を買ったり、沢庵や茶碗や、茶呑道具まで揃えると、あとは半月分あまりの間代を入れるのがせいいっぱいだった。十三円の金の他愛なさよ。

寒い息を吐きながら、二人が重い荷物を両方から引っぱって帰った時は、丁度十時近かった。

「一寸! 前のうちねえ、小唄の師匠さんよ、ホラ……いいわね。」

傘さして

かざすや廓の花吹雪

この鉢巻は過ぎしころ

紫におう江戸の春

目と鼻の路地向うの二階屋から、沈んだ三味線の音〆がきこえている。細目にあけた雨戸の蔭には、お隣の灯の明るい障子のこまかいサンが見える。

「お風呂は明日にして寝ましょう、上蒲団は借りたのかしら?」

時ちゃんはピシャリと障子を締めた。――敷蒲団はたいさんと私と一緒の時代のがたいさんが小堀さんのところへお嫁に行ったので残っていた。あの人は鍋も庖丁も敷蒲団も置いて行ってしまった。一番なつかしく、一番厭な思い出の残った本郷の酒屋の二階を私は思い出していた。