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しんさいゆうき

新西遊記

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页

青空文庫

その下の宮殿は立方体式の宏壮な石※(「土へん+專」、第3水準1-15-59)を幾層となく積みかさね、幾何学的配列で窓をうがった正面の壁はやや前方へ傾斜し、古代エジプトの神殿建築のバイロン(塔門)の様式に似ている。正面だけでも半リーグ(約半里)以上もある建物が岩山の南面の半ばを蔽いつくし、それを中心にして、拝殿、祠殿、霊廟、僧院、仏塔と幾百の堂宇が無数の石階や石廊や拱門で縦横につながり、四千年前に消滅したテーベの栄華の宮殿の復原図を眼のあたりに見るような幻想的な画面をつくりあげている。

空を摩して聳えるヒマラヤ山脈の等高地帯、喜水の渓谷に、西蔵の主都であり西康、青海、蒙古、新彊、露領トルキスタン、裏海沿岸に住む黄ラマ教一千万の信者のメッカになっている拉薩という都があることは知っていたが、モンブランの二倍ほどの高さのユングリング・リラの切通しのかなた、西蔵高原の風雪に櫛けずられた広袤一千リーグ(方千里)の荒れ地の果てで、眼をおどろかす荘厳華麗な大都市の実在に接しようなどと誰が想像したろう。

ポンタマー・ホ(玉の宮殿の意)と名づけられている大宮殿の壁の厚さはただごとではない。