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しんさいゆうき
新西遊記
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页
刑僧は直接になにもしない。円滑に刑が進行するよう傍で鞭撻するだけである。はじめのうち、受刑者たちはやさしくいたわりあっているが、そのうちにたがいに呪咀しあい、最後はあらんかぎりの憎しみを投げあう眼もあてられない場面になる。歯は全部抜けたが、刑は終ったのではない。そこからはじまる。こんどは、抜いた歯をたがいの脳天へ金槌で打ちこまなくてはならない。さっきの毛剃りは、歯を楽に頭蓋骨へ嵌入させようという親切な配慮だったことを、ここではじめて諒解する。なおまた、受刑者が仏敵であるときは、打ちこんだ歯の配列が、仏陀のイニシアルになっている梵字のチベット文字ta+音節区切り記号のグリフのフィギュアを描くように、傍から丁寧に指示するのである」
受刑者の身体を焼く刑罰にしても、西班牙や独逸では、石炭の火を入れたアイロンで身体を撫でまわすとか、蝋燭の火で気長に腋を焼くぐらいのことしかしないが、そういう場合、ラマ僧は硫黄のかたまりに火をつけてどろどろになるのを待ち、焔のたつ硫黄の溶体を棒の先ですくって、ここと思うところへ気まぐれに塗りつける。受刑者が火を磨り消そうと努力すればするほど炎の面積が広くなり、燐が骨を腐蝕する時間が早くなる。