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まさことまき
方子と末起
小栗 虫太郎
「週刊朝日読物号」朝日新聞社、1938(昭和13)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,517 字 · 24 页
あなたの、方子より
………………………
相良末起の、母親が殺されたのは、四年ほどまえのことだった。
石町で、大光斎といわれる大店の人形師、その家つき娘の、末起の母親おゆうはそりゃ美しかった。色白で、細面ですらりとした瘠せ形で、どこかに、人の母となっても邪気なさが漂っていた。
ところが末起にとってみれば生みの父親であるところの、さいしょの養子は間もなく死に、二度目の、いまの謙吉は事業慾がつよく、連綿とした、老舗を畳んでセロハン会社などをやっていた。
それは、謙吉に時世をみる眼があったからだろうか、暖簾や、伝統などに執着せずさらっと止めたことは、多くの競争者のなかにあってマネキン人形などつくるよりも、大光斎としては有終の美であったにちがいない。
そうして、末起は、郊外の邸町で育ち、黒襟の、母や祖母とはそぐわぬ、ミッションスクールに入れられた。ところが、その年の夏ちかいころ、この一家におそろしい悲劇が見舞ったのである。
とつぜん、なんの予兆も前触れもなしに、意外な人が思わぬ人の手にかかってしまった。
それまでは、風波といっては別にない家庭で……、ただ、末起の母が結核にかかったこと、従って謙吉には外泊が多くなり、それやこれやで、相良の家は決して明るくはなかった。