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ひびのうつり
日々の映り
宮本 百合子
「文芸集団」(名古屋帝国大学医学部学生の同人誌)、1939(昭和14)年第1号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,131 字 · 16 页
どことなしかわった趣のあるその界隈の様子は面白く、ひろ子はそれにさそわれて墓地を抜けようとしたが、思いかえして、同じ通りを三つまた迄もどり、さっきの電車どおりに沿った雑木林の中を行った。
いずれはまるでちがったところになってしまうのだろうが、今はまだこの雑木林の中に、一本ひろい砂利道が通っているばかりであった。うしろから来る自転車のベルは、砂利をはじく音とともに枝さしかわしている欅の高い梢の方へつたわってゆく。去年の落葉の下に湿っている土の匂い、新芽だつ樹液の香りなどが木の間に漂っていて、これが市中であるだけ一層鋭く目をさまされる野外の感覚に浸りながら、ひろ子はゆっくり省線の駅に向って歩いた。
散歩かときかれれば、そうでもあり、家探しかときかれれば、そうでもある。ひろ子の歩いている気持はそのようなものであった。その頃は云い合わせたように友達たちも、家をさがしていた。それぞれの理由が、それぞれにこの数年間の彼等の生活のうつりかわりを反映しているのであったが、ひろ子が家を見て歩くには、又おのずから別なわけがあった。一軒の家というものは大なり小なり二人以上の人間がよって暮すように出来ている。