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ひびのうつり
日々の映り
宮本 百合子
「文芸集団」(名古屋帝国大学医学部学生の同人誌)、1939(昭和14)年第1号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,131 字 · 16 页
乙女はそう云うと、相変らず細くて長い両方の眉毛をつり上げるような表情をして、鼻に可愛い縦皺をよせながら笑った。それはどこか野兎に似た顔つきで、彼女の言葉にのこっている田舎の訛りとともに、乙女を描くなら蕪でも添えて描きたい感興をおこさせる人柄なのであった。
けれども、落付いてみるときょうの乙女は何となしいつもとちがうよそゆきの座りかた喋りかたで、時々柱時計の方を見上げては、下唇をなめている。昔この唇は荒れていて白かった。今は紅がぬられている。そういうちがいこそあっても、乙女が我知らず唇をなめるときには、きっと何か気がかりなことがその小さい薄い胸にかくされている、その癖にちがいはないのである。ひろ子は、それに気付くと半分ふざける親しさで、
「何思案をしているの」
と笑った。
「時間が心配? それなら用事かたづけてしまおう、ね」
乙女が勤めを大切に思うことを、ひろ子は寧ろ好感でうけた。
「友子さんのハガキのことね、どう思う?」
乙女は一層はげしく上唇、下唇となめたが、大きい二重瞼の二つの眼をひろ子の顔の上へ据えるようにして、
「そりゃ、一緒に暮して行ければあたいもいいと思う」