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ひはかがやけり
日は輝けり
宮本 百合子
「中央公論」1917(大正6)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页
かなり長い路を、病院から帰ってきた浩は、もういい加減疲れていた。小道を曲って、K商店の通用門を押した。厚い板戸がバネをきしませながら開くと、賑やかな笑声が、ドーッと一時に耳を撲った。明るい中で立ったりいたりするたくさんの人かげが、硝子越しに見える。外界からの刺戟にも、内面からの動揺にも、絶えず緊張し通して一日を送った彼は、せめて寝る前僅かでも、静寂な、落付きのある居場所を見出したかった。
陽気すぎる中に入れきれずに暫く立っていた浩は、やがて思いなおして、一歩入り口に足を踏み込もうとした瞬間、隅の暗がりから、不意に彼の袴を引いたものがある。
「浩君! ちょっと……」
彼をもとの往来に誘い出したのは、庸之助であった。街燈の下まで来ると、彼は立ち止まった。憚かるようにキョロキョロと周囲を見まわしてから、一枚の地方新聞を浩の前に突出すと、往き来するものが、浩のそばへよらないように、彼の体の近くを行きつ戻りつしはじめた。
何から何まであまり不意だったので、訳の分らなかった浩は、云われるままに新聞を見ると、庸之助のつけたらしい、爪や涙のあとのある部分には、読者の興味を、さほど期待しないような活字と標題で――郡役所の官金費消事件が載せられていた。