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ひはかがやけり

日は輝けり

宮本 百合子

「中央公論」1917(大正6)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页

青空文庫

もう何年も旅という声さえ聞かなかったお咲は、息子の手をしっかり握りながら、かなりまごまごして、はたの者の云うことなどは、よくも耳に止まらぬらしかった。天井も床も一緒くたに掻き廻すような騒々しさに、彼女は全くのぼせ上っていた。けれども、心の底にはいつでも涙がこぼれそうな悲しさがあった。なけなしの懐から、空気枕だの菓子などを買って来た浩に対しても、疲れていながら、わざわざ送って来てくれた良人に対しても、彼女は、もうお別れだという心持をしみじみと感じた。「私はもう死にに帰るのかもしれない」というように、皆の顔を眺めているお咲を見ると、見送りに来た者も、妙に滅入った心持になって、ただ帰国するものを送るというより以上に、何か重たいものが、のしかかって来る気がした。恭二などが、いろいろ咲二に優しい言葉をかけたり、お咲を労わったりしているのを見ても、浩はほんとうに、もう帰るとか帰らないとかいうことを、問題にもならなくしてしまう予感が、この別れ際に彼女に各自の愛情を注がせているのではないかということさえ考えた。そして、強いて皆が、安心そうに、全快し帰京することなどを話しているのを見ると、幾分腹立たしいような心持がした。