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ひめくり

日めくり

壺井 栄

「群像」1963(昭和38)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,884 字 · 34 页

青空文庫

二月二十日は、三十年前に、作家であり共産党員であった小林多喜二が、つかまっていた築地警察で虐殺された忘れがたい日であるが、更に一昔前の同じ日、並川文吉と元子は、たった二人きりの結婚式をあげたのであった。あれから四十年たったというわけだ。

「実は、私も忘れてたんだ」

「…………」

「白のフリージヤを、うんともってきてくれたのよ」

一昨年の、元子のはじめての入院中のことであった。ピンクのリボンで結んだ美事なフリージヤの花束を、ベッドの上の元子にささげて、

「おめでとうございます。花束だけでかんべんしていただきます」

にやにやされて、ただのお見舞いでないことに元子はすぐ気がついた。

「ありがとう」

家族のだれも忘れているほど遠々しい結婚記念日を、彼だけが覚えていて、病気見舞いのところをそれにさしかえた思いつきが、元子はうれしかった。

「よく、知ってたわね」

「いやあ、ひろみに、いわれたんですよ」

正直なところをぶちまけるのもよかった。

そういえば、フリージヤは、山形の結婚式にも、花嫁のひろみが胸に抱えていた花でもある。太郎が一任されて買ってきたその花は今も心に残っているほど美しく清楚で、花嫁のひろみを引き立たせた。