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にちえいのおもいで

日映の思い出

坂口 安吾

「キネマ旬報 再建第一〇号」1947(昭和22)年2月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,428 字 · 3 页

青空文庫

という小説が短篇芸術映画の筋になるような気がしたが、と言う。義仲勢が敗北して義仲も巴もバラ/\になり義仲は討死してしまう。巴がたった一人落のびてきて野道で会った百姓娘に無心して一夜の宿を泊めて貰う。風呂がわく。巴が風呂へはいる。巴が一枚々々着物をぬいでゆく。最愛の人の討死を見とゞけてきたばかりの、そして一切の夢の終った強いそして美しい一人の女の落武者が、一枚々々着物をぬいで行く。そこのところで、U氏は話を止めて、私の目を見つめた。

U氏はこういう人である。巴が一枚々々着物をぬいで行く。映画の本質にむすびついた美に就て、映画の上でしか在り得ない美に就て、U氏は正しい感受性を持っていたのである。外の映画会社の社長にこれだけの識見は多分なさそうで、菊池寛社長の企業的才能よりも、U氏のこのつゝましい識見の方が、日本のためには必要なのだと私は思う。

ところが、あいにくなことにこのU氏には実行力、決断力というものがない。映画界というところはうるさいところで、演出は演出、企画は企画、俳優は俳優、カメラはカメラ、それ/″\自分をまもるための組合組織みたいな結合が発達していて、つまり個人としての才能に自信がないから団体的に自分をまもろうとするのだろうが、それだけに素人の社長が自分の意見を通すことができない。