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にちげつさま

日月様

坂口 安吾

「オール読物 第四巻第七号」1949(昭和24)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,162 字 · 23 页

青空文庫

ときくと、二人の娘がしばらく額をよせ集めてヒソヒソ話していたが、

「あゝそう、君ちゃんのことよ」

と、一人が大声で叫んだ。

「なんだ。君ちゃんか」

二人の娘は笑った。

「君ちゃんは、もう、いません、お風呂へ行った筈ですから、今日はもう来ませんわ」

「どこかへ行けば、会える場所があるんですか」

「それは、お店よ」

「お店?」

「御存知ないんですか。カフェー・ゴンドラと云いましてね、そこの露路の中程にあります。もう、出たころでしょう。でも、まだかも知れないわ」

私は礼をのべて、その露路へ行った。そこは軒なみにカフェーの立ち並んでいる所で、各々の戸口に美人女給が立って、露路へ迷いこむ通行人を呼びこみ、時には手を握って引っぱりこもうとしたりした。

私はゴンドラを見出してズカズカはいった。王子君五郎氏はそこのバーテンだろうと思ったのである。然し、バーテンダーは彼氏ではなかった。見廻したが、まだ、ほかにお客が一人もおらず、女給のほかに男は見当らなかった。

「この店に王子君五郎という人がいるときいたんですが、もしや、常連にそういう人がおりませんか」

「君ちゃんでしょう。えゝ、おります」