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にちげつさま

日月様

坂口 安吾

「オール読物 第四巻第七号」1949(昭和24)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,162 字 · 23 页

青空文庫

と、こゝでは躊躇なくズバリと答えた。

「君ちゃーん。お客様よ」

と、一人は奥へよびかけた。

これから、どういう事が起ったか、ということについては、二十の扉や話の泉でかねて頭脳練成につとめている皆さん方、お分りですか。あと、三十秒。鐘が鳴らなかったら、皆さん方は、当事者の私よりも、御練達の士なのである。

王子君五郎氏はまさしく現われてきたのである。然し、これを君五郎氏と云っては、あるいはよろしくない。君ちゃん、である。然し、君ちゃん、と云うのも異様であるが、動物園の象に花子ちゃんとか、それで通用する世間でもあるから、君ちゃん、それでよろしいのだろう。ジキル氏とハイド氏ほど悪魔的なものではない。

現われ出でたる君ちゃんは女であった。然したしかに、王子君五郎氏でもあるのである。上野の杜では、すでにオナジミの極めてありふれた日本の一現象にすぎないのかも知れないが、センバン工王子君五郎という、決して女性的ではなく、むしろズングリと節くれた彼氏を知る私にとって、この出現が奇絶怪絶、度胆をぬかれる性質のものであったことは、同情していたゞかなければならない。

君ちゃんはまさしく女装であったが、女装であるという以外に、女らしいものは何もなかった。