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あゆむ
日本プロレタリア文学集・23 婦人作家集(三)
戸田 豊子
戸田豊子『日本プロレタリア文学集・23 婦人作家集(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:歩む、鋳物工場。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,183 字 · 44 页
歩む
街で兄に遇った。走ってる電車のなかで新聞を読んでいた。ハンドルを持つ手が、赤く大きく、じろりと、とも子を見た。
「仕事をみつけたのかい」
いかにも疲れたらしい妹の恰好に眼をつけ乍ら、そう言った。とも子は黙って肯いた。スカートがべとべとからみつく様な疾風に逆いながら、一日ぐるぐる歩きまわった。訪問、契約、拒絶、報告、――。
「今度は何だい。また馘られんようにした方がいいぜ」
「今度のは大丈夫。何故? 余り金借りにゆかれると困るから?」
新聞を畳んでポケットへしまいながら、兄はにやりとした。組んでいたズボンの片方を降して、一寸、窓を振り返った。
とも子は挟みこまれたスカートを引っぱり、兄のカフスの汚れに目を止めた。土曜の此時刻には割に空いてる線だった。
「近頃、新聞を読んでるのかい」
「どんな新聞」
「ブルジョア新聞さ、俺の自動車の前でお婆さんがお叩頭しちゃったんだ、金持のご隠居だ相だが嫌になっちゃったよ。今度の争議の計画で会社側に睨まれてる最中だろう、いい解雇の口実を与えて了ったのさ、不利も不利――」
「お婆さんを――」とも子は複雑な唸り方をして、「そりゃ可哀相ね、まさか死にやしないでしょうね」