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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

風鈴

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,649 字 · 27 页

青空文庫

……小松が帰っていったあと、縫物を膝の上に置いたまま、弥生はやや久しいあいだ惘然と刻をすごした。明けてある障子の向うに狭い庭がみえる、午後のもう傾きかけた日ざしのなかに、芒の穂が銀色に浮きでている、萩の撓やかな枝もさかりの花で、そのあたりいちめん雪を散らしたようだ。庭とは名ばかりの狭い、なんの結構もないものだが、芒が穂立ち萩の咲くこの季節だけは美しくなる。秋のふぜいがあふれるようで、いつまで眺めても飽きることがない、妹たちもこの家にいるじぶんは嵯峨野うつしなどといって自慢の一つにしていた。さっき二人がはいって来たとき障子をあけたのは、彼女たちがまえのようによろこびの声をあげて呉れると思ったからだ、然し二人とも見向きもしなかった、たとえ見たにしてもあの頃のようなよろこびは感じなかったに違いない、閑かな秋の日ざしのなかの、芒や萩の伏枝をみて侘しいおもいをたのしむような気持は、もう妹たちにはなくなっているのだ。弥生はそう思いながらやるせないほど孤独な寂しさにおそわれるのだった。

「どうしたのだ」とつぜんうしろでそういうこえがした、「ぐあいでも悪いのか」ああと弥生は身ぶるいをしながらふり返った、良人の三右衛門がそこに立っていた。