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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

松の花

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,743 字 · 22 页

青空文庫

三

藤右衛門は鈴をとって強くうち振った。

三

来たのは金三郎であった。

「お呼びでございますか」

「仏前にまだ誰ぞおるか」

「はい」

障子のそとで、金三郎が廊下に手をつくさまが感じられた。

「誦経の声がするではないか、誰だ」

「……はい」

「誰々がおるのだ」

「はい。家士、しもべの女房どもでございます」

金三郎の声は苦しそうだった。藤右衛門の眉がけわしく歪んだ。掟のきびしい武家屋敷では、家士しもべの女房などが、みだりに奥へはいることはゆるされない。それで藤右衛門は怒りを抑えながら云った。

「誰がゆるしてさようなことをした、伽はそのほうと格之助でせよとかたく申しつけたではないか、ならんぞ」

「父上、おねがいでございます」

しずかに障子をあけ、廊下に平伏したまま金三郎は訴えるように云った。

「あの者どもは母上を、つねづね実の親のようにもおしたい申しておりました。あの者どものかなしみは、世間ふつうのしもべが主人をうしなったのとは違います、肉親の母親をなくしたよりもつらいのです。兄上にもわたくしにもそれがよくわかります。とてもゆるさぬとは申せませぬ、父上。どうぞ今宵一夜のお伽をゆるしておやり下さい、おねがいでござります」