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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
おもかげ
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,412 字 · 25 页
そのことがきまった日の宵であった。父の民部は夕食のあとで彼を居間へ呼び、あらたまった口ぶりで話があると云った。
「おまえはどうやら叔母を怨んでいるようすだな」
思いがけないときに思いがけない言葉で、彼にはちょっと返辞ができなかった。
「怨んでいるほどでなくとも嫌っていることはたしかであろう、そうではないか」
「それは、どういうわけでしょうか」
「隠すことはない父にはよくわかっていた」民部はじっと彼の眼をみつめながら云った、「おまえはひところ頻りに江戸へ呼んで呉れと手紙をよこした、叔母の躾けのきびしさに堪えかねていることは察しがついたけれど、そしておまえがふびんでなくはなかったが、父はいちども返事をやらなかった、なぜやらなかったか、武士ひとりいちにんまえに育てるということはなまやさしい問題ではない、ただ人間としていちにんまえにするだけならべつだが、武士は農工商の上にたつものとされ、生れながらに一つの特権を与えられる。それはこの国と御主君を守護し、いざというとき身命を捧げてはたらくからだ。然しこのように世が泰平で、身命を捧げてはたらく機会のない時代には、その特権は決して望ましいものではない、よほど廉潔の心をかたくし正真のたましいをやしなわぬと、それは世を誤まり人を毒す、したがって武士らしい武士を育てるには、躾ける者