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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
小指
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,032 字 · 22 页
というように天床を見た。
若主人の動作が止まったまま動かなくなったので八重はふり仰いで見た。そしてまた例の放心癖が出たと思ったのだろう。「お袴でございますか」と、そっと笑いながらいった。平三郎は曖昧に頷いて、居間から出ていった。
それから三日めの朝、やはり出仕の支度をしている時のことだった。例のとおり八重が眼の前に跼んで、袴の襞を正し、とんと軽く下へ引く、その柔らかいちからを身に感じたとき、平三郎は夢から醒めたように、「ああこれはいけない」と呟いた、八重はふり仰いだ。
「いかがあそばしました」
「いけない、いけない」平三郎はなおそう呟いた、「……これは失策をした」
「どうあそばしました、なにか……」
「迂濶だった、八重」そういって彼は、上から八重を見下ろした。「……おまえがいたじゃないか、此処におまえがいたじゃないか」
「わたしが、どうか致しましたのでしょうか」
「この平三郎の妻さ」
「…………」
「他から貰うことはなかった、平三郎の妻には八重がいちばんふさわしい、どうしてそれがわからなかったかふしぎだ、これも『袴』のうちだろうか」
八重は蒼白になった。唇まで白くしわなわなと震えていた。