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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

萱笠

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,885 字 · 27 页

青空文庫

五

五

それからあわただしい日が続いた。吉村から人を介して太田の家へはなしがあり、折よく長篠から凱陣した兵といっしょに助七郎が帰って、あきつには殆んど相談もなく縁談がきめられた。そして大三郎はなお家康本陣にあり、次ぎの合戦に残ることになっていたので、帰るまでより女の看とりをするということにきまり、僅かな身のまわりの物を持っただけで、あきつは吉村の家へと移っていった。

正しくかたちは移っていったというだけである、あきつ自身にも「嫁ぐ」という気持は少しもなかった。大三郎の帰るまでより女の世話をする、それがせめてもの罪の贖ないだと思った。けれども吉村の母は本当に娶ったつもりとみえ、家事のことも応対もすべてが嫁の扱いだった。

「……狭い家のことだから覚えて頂くほどのこともないのだけれど」

そう云って、道具類のあり場所、置きどころ、手いれの仕方などから、近隣とのつきあいのことまで、手を取るように教えて呉れた。そのときより女はふと笑いながら、「そうそう、あれを見て頂きましょうね」

そう云って、納戸から萱の一文字笠を取りだして来た。「大三郎が自分で作ったのですよ」吉村の母はそれをあきつの手に渡した、「……あれは畑いじりが好きで蔬菜物を二段も作っていますが、畑仕事をするときや、お役の馬草刈りなどにはこれを冠ります、頭に載せる