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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
萱笠
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,885 字 · 27 页
――云ってしまいたい、そうすればこの苦しみかられられる、でもそうしたらお母上はどうなさるだろう、あんなによろこんでいらっしゃるお母上はどうあそばすか、……云ってはならない、やっぱり大三郎さまのお帰りまで、こうしてお仕え申すのがほんとうだ、それが唯ひとつの申しわけなのだ。そう心をきめ、辛くも自分を抑えることができたあきつは、それまでとは際だって働きはじめた。
「畑へ少しものを作ってみたいのですけれどいけませんでしょうか」
「あれは自分の畑をひとに触られるのが嫌いで、わたしにも手をつけさせないのですよ、こんど出陣するときにも、植えてあった菜や人参を、みんな抜いてご近所へ配ってゆきました、帰るまで誰も手をつけないように、諄いほどそう申しましてね」
「でもそれではお畑が荒れてしまいましょう」
「どんなに荒れても、自分が帰って手をつければすぐ元どおりになる、あれはそのように申しますの、土というものは耕やす者の心をうつす、自分はものを作るというより、その土に映る自分の心をみるのが目的だ、……よくそんなことを申しますよ」
あきつは聞いていて頭がさがった。またひとつ大三郎の新らしい面を知らされた、そういう慎ましい気持、土からさえ教えられようとする謙虚な心がまえ、これがほんとうのあの方だ、世評はうわべだけしか見ていない、ここに