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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

糸車

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,187 字 · 24 页

青空文庫

翌日は梶女につれられて山辺の温泉へいった。それは城からひがし北に当る山ふところにあり、清らかな流れと、谷峡の眺めの美しい場所だった。母娘はいっしょに湯に浸ったり、香りたかい草木の芽をあしらった鄙びた午食をたべたりしたのち、まだ珍らしい山独活をみやげに屋敷へ帰った。三日めは家にいて、兄弟たちと話したり自慢の道具を見たりして暮した。その夜のことである。自分にあてられた部屋で梶女とあい対したとき、お高は明日松代へ帰らせて頂くと云いだした。梶女はそう云われるのを予期していたらしい、そっと部屋を出ていったが、すぐに一通の封書を持って戻って来た。

「依田どのからあなたにあてた手紙です、とにかくこれを読んでごらんなさい」

こう云ってそれをわたした。うけとってみると正しく依田の父から彼女にあてたものだった。――こんど松本へおまえを帰すに当っては色いろ考えたが、西村からこれまでの養育料としてかなり多額なだいもつを呉れるはなしがあり、それだけあれば自分は田地でも買って、松之助とふたり安穏にくらしてゆけるし、おまえも西村のむすめとして仕合せな生涯にはいれるであろう、自分のためにもおまえのためにもこうするのがいちばんよいと思う、じかにこのゆくたてを話したうえ、こころよく別れを惜しみたかったが、顔をみていてはおまえの気持がきまる