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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

糸車

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,187 字 · 24 页

青空文庫

二

「松之助さん来てごらんなさい、みごとな生きた鰍ですよ」

然し松之助の返辞はつきはなすようなものだった、

「いま勉強していますからあとで」

それだけだった。お高はつい今しがたまでの浮き浮きした気持が、かなしいほど重たく沈んでゆくのを感じながら、庖丁を取って魚を作りはじめた。

二

夕食のあと片づけを済ませてから、お高が糸繰りの仕事をひろげると間もなく父に呼ばれた。

「少し肩を撫でて貰いたいのだが」

父は床の上に起きなおってこちらへ背を向けていた。脇に置いてある行燈の光が、痩せた父の高頬をいたいたしくうつしだしていた、お高はすぐその背へつかまった、

「お寒くはございませんですか」

「まだ酒がきいているとみえてほかほかといい心もちだ、力をいれなくともよい、そうやって撫でていて呉れればよいから」

「はい、このくらいでございますね」

お高は父の背から肩へかけてしずかに撫ではじめた。松之助は少しまえに寝てしまい、ひっそりと静かになった組長屋のかなたから、なにか祝い事でもあるのだろう、小謡のさびたこえが聞えて来た。

「おまえあした、松本へゆくのだがな」

父がふと思いだしたようにこう云った、