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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
糸車
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,187 字 · 24 页
そのときはべつになんの気もつかず、目笊を持ったまま父の居間へいった。
「帰りに鰍を売っておりましたので少し求めてまいりました」
挨拶をするとすぐそう云って父に見せた、
「ごらん下さいまし、まだこんなに生きております」
「ほうこれは珍らしいみごとなものだな、もうこんなに鰍の肥る季節になったのだな」
啓七郎は少しふるえのある手をさしのべて、目笊の中の魚を好ましそうにつついてみた。
「ずいぶん数があるではないか、まだ高価であろうに」
「いいえそれほどでもございませんでした、今晩のお酒に甘露煮と魚田をお作り申しまして、余ったぶんは焼干しにしてもよいと思いましたから」
「こんな心配ばかりさせて、どうも……」
呟くようにそう云いかけるのを、お高は聞えぬ風に立ちながら、
「さあ早くおしたく致しましょう」と厨のほうへさがっていった。
父の口ぶりや態度がいつもとは違っている、お高はそれを感ずると同時に、弟のようすもふだんとはまるで変っていたことに気づいた。どうしたのだろう、なにか留守に悪いことでもあったのかしら、お高はにわかに不安になった、そしてそれをうち消したいために弟を呼んでみた、